04.明日晴れたら













どんよりと曇った空。
重くるしい雨雲。
何時までも降り続く冷たい雨……








「ねぇ、いつになったらこの雨止むんでしょうね?」
「まったくさぁ〜季節がら、こんな長雨……珍しいさぁ〜」
「毎日こんなに雨ばっかりじゃ、精神的にも暗くなっちゃいますよねぇ……」
「ほんとさ〜ヒマさぁ〜〜」


         
しょっ
この世の運命を背負って立つエクソシストとは思えないような
怠惰なセリフが飛び交う。
ここは教団本部の談話室内。



ここのところの長雨で、これといった任務もない。
とんと幸せなはずの長期休暇を、
何処に行くこともできずに腐っているメンバーが約数名……
何をするでもなくまったりとした時間を、この談話室でまんじりと過ごしていた。



「……ったく、おめぇらはうだうだグジグジ……なめくじか?!
 うるせぇんだよ!」
「……で、そういうユウは、なんで此処で、こんなんしてるんさぁ?」
「そんなラビ、失礼ですよ。
 神田もヒマなんです。だから用もないのに、ここでヒマを潰しているに
 決まってるじゃないですか……ねぇ? 神田?」
「……うっ、うるせぇっ!」



確信をつかれたせいか、神田は無愛想な表情を余計に引きつらせる。
要は神田もヒマを持て余していた……図星だったわけだ。


そんな神田を見ながら、アレンはふとある考えを思いつく。
絶妙な笑顔を彼に向けながら、不敵に呟いた。



「ねぇ神田、そんなにヒマなら、僕とポーカーしませんか?
 キミが勝ったら、僕が何でも言う事を聞きます。
 そして僕が勝ったら、明日一日、キミが僕に付き合ってもらえませんか?」
「チッ……何で俺がお前なんかに付き合わなきゃなんねぇんだ」
「あれ? ってことは、もうやる前からキミが負けるって思ってるんですか?」
「……なっ! んな訳ねぇだろ! 誰がお前なんかに負けるかっ!」



売り言葉に買い言葉。
上手くアレンに言いくるめられた神田は、
ほとんど瞬殺状態で、ほどなく賭けに負けることとなる。



「……くっ……!」
「はぁい、僕の勝ちですよね?」


            
しりめ
口惜しそうな神田を後目に、アレンは至極楽しそうな表情を見せた。



「じゃあ約束どおり、明日晴れたら、僕に付き合ってくださいね?」
「…………」

















翌日、アレンの願いが天に届いたかのように、
雨雲は姿を消し、綺麗な青空が顔を覗かせていた。



アレンは何かを探すように辺りを見回し、
目的のものを見つけたのか、飛び切りの笑顔で神田にあるものを指差す。



「ねぇ、神田! 見てくださいっ!あれ、あれですよっ!」
「……あぁ? なんだ?」
「ほら、あそこ! あの木の向こうです!」
「……?!……」



そこには神田も目を見張るほどの、綺麗な虹が浮かび上がっていた。
恐ろしく綺麗な、七色のプリズムが描く、夢の架け橋……



「ね?綺麗でしょ?」
「……まぁな……」
「もう、相変わらずムードないなぁ……ねぇ、約束ですよ。
 僕に付き合って、あの虹のふもとまで一緒に行って下さい」
「……はぁ……?」



アレンが何を言いたいのか全くと言っていいほど理解できない。
神田は怪訝そうに眉をひそめたが、約束は約束なので、
仕方なくアレンに付き合って虹のふもとまで脚を運んだ。



虹の袂には小さな湖があって、昨日までの長雨のせいなのか
水位が上がって、湖畔の大樹を半分ほど飲み込んでいる。
アレンは俄かに水面に顔を出している大樹の枝に腰を下ろし、
神田に向かって隣に座れと促すように、ちょんちょんと指差して見せた。



神田が何も言わずにアレンの横に腰掛けると、
アレンは幸せそうな笑みを浮かべて神田に寄り添う。



「ねぇ、虹のふもとには宝物があるとか、幸福があるっていう言い伝えを知ってますか?」
「……さぁな……聞いたことがあるかもしれねぇが、よく覚えてねぇ……」
「ふふ……キミのことだから、そう言うと思ってました。
 けど、僕の生まれた地方では、虹の橋の袂には楽園があって、
 そこで出会った二人は、生涯一緒にいられる……
 例え死んでも巡り合えるっていう古い言い伝えがあるんですよ…?」
「……で、お前はその言い伝えを信じて、わざわざ俺をこんな所まで
 連れてきたってわけか……?」
「そうです……いけませんか?」



初めから訳を知っていれば、ついてなどこなかっただろう。
くだらない……と一笑に伏したに違いない。
だが今日、のこのことアレンの誘いに付いて来たのは、
アレンの策略に乗せられたふりをして、二人っきりになりたいという
ささやかな欲望もあった訳で……



「別にダメだとは言ってねぇ……」



ぽつりとそう呟く。
するとアレンは、小首を傾げながら満足そうに神田を覗き込んだ。



「じゃあ、今ここで約束してください。
 僕とキミは……いつまでも……いつまでもずっと一緒だって……」
「……モヤシ……」


きらめ
煌く水面が映し出す虹の袂で、
ふたりはどちらともなく、互いの唇を重ねあった……







    
           のっと    とわ
この口付けが伝えに則り、永久の誓いであるようにと。
















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